「地獄」と題されたクリスマス説教

「クリスマスの説教」と言うと、

天使ガブリエル、聖母マリア、大工ヨセフ、馬小屋、イエスの誕生、馬槽(まぶね)と家畜、羊飼い、東方の博士たち…

いわゆる「聖書クリスマス物語」に出てくる話がほとんどでしょう。

今度の日曜日がちょうどクリスマスの日(12月25日)なので、近くの教会に行けば(どこでも大歓迎されるはず)、このような話を聞く良い機会でしょう。

しかし、クリスマスの期節に「地獄」の話を聞いたことありますか。おそらくないでしょう。

私自身も、アメリカ南部のいわゆる「聖書地帯」(Bible Belt)で育ったにもかかわらず、待降節降誕節の時期に、地獄についての説教を聞いた覚えはありません。Not until this week.

ツイッター仲間のおかげで、“Hell”と題された説教を読んでしまいました。

最初は、“What? Hell?!”と思っていました。「メリー・クリスマス」どころか、「怖いクリスマス」じゃないですか。

  • 注: 「メリー」とは「幸せな」という意味で、「メリー・クリスマス」の意味は「幸せなクリスマスでありますように」のような意味です。

説教者はアンドリュー・マックガーウェンという方で、米国聖公会に所属するイェール・バークレー神学校の学長、また、イェール大学神学部の教授でもあります。

マックガーウェン氏は、単純な「地獄話」をして、会衆を恐怖に貶めるような方ではないはずだと思い、ふと読んでみようと思いました。

下に説教の一部分を引用しながら簡単に要約してみましたが、ご興味のある方は下のリンクを通してマックガーウェン氏のオーストラリア英語を聞きながら、12分半という短い説教の原文を読んでみてください。

いつもと違う観点からクリスマスの意味について考える機会となるのではないかと思います。

Hell・地獄

説教の冒頭に触れらていますが、昔のあるキリスト教伝統の中で、待降節の四つの日曜日に、「終末における四つのこと」、すなわち、死、最後の審判、天国、そして地獄について説教されることが普通でした。

「それにしても…」と思ったところで、少し予想外の展開になり、意外に感銘を受けました。

導入の後、マックガーウェン氏は聖書の話ではなく、Bliss(至福)という長編小説の筋について話し始めます。

Bliss ピーター・ケアリーというオーストラリア人小説家の最初の長編小説であり、「ブリス/あの世とこの世とこの野郎」という「シニカルで笑えないコメディ」映画(1985年)にもなっています。(ここで観れます

 ある日突然、心臓発作に襲われ臨死体験をした男が奇跡的な蘇生をする。彼は自分の生活を見つめなおし、自分を取り巻く偽善[地上の地獄]に気付く。輪廻転生を信じた彼は来世に望みを託して今の生活を捨てる決心をするが、家族や仕事のパートナーたちは、彼を元の生活に引き戻そう画策する……。(allcinemaより

マックガーウェン氏はこう語ります。

It may be that we need to understand, as Harry Joy came to understand, that what we may take for heaven – or at least for normality – actually is hell; that we need to be released from a bondage to the power of death so profound that we cannot even see how much we and the world need deliverance from it.

そしてさらに、

…Hell has already planted its standard on the earth just as heaven has: ask the people of Aleppo these recent months, or those who sat through the trial of Dylan Roof this past week, or those who experienced the bombings in Cairo or Istanbul last week; and hell reigns much closer to home as well, in every act of violence and terror, every inaction driven by contempt and indifference. For hell among us is not just the spectacular, but includes the banal also.

簡単に言うと、マックガーウェン氏が言う「地獄」とは、私たちを取り巻く「目覚ましい」(spectacular)悪のみならず、日々の生活の中に見られる「平凡な」(banal)悪でもある、と。言うまでもなく、この悪の主体はツノのついた赤い悪魔ではなく、私たち人間であるということです。

マックガーウェン氏はこの結論に至ります。

…We need the child [イエス・キリストのこと] because we live in hell – in the power of sin and death – and he promises to deliver us. In coming to earth, in his life, death and resurrection, he will…face the power of hell, storm its stronghold, and free from its prison those who know they need God’s victory.

He calls us to come out of hell – out from our false heavens, our illusions of security and self-satisfaction. Hell’s power is false and its days are numbered. A child is coming, Immanuel, God with us. And if God is with us, who can be against us?

マックガーウェン氏によると、クリスマス、すなわち、イエス・キリストの誕生の究極的な目的はこれです。「インマヌエル」(神はわれらとともに)と名付けられた赤ん坊イエスは、やがては地獄の力に立ち向かい、地獄の鎖を断ち切り、我々を取り巻く地獄の中から我々を招き出そうとしている、ということです。

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とても簡単にまとめましたが、良かったら、このリンクで全文を読みながら、実際の説教(12分24秒)を聞いてみてください。説教原稿と説教オーディオは少し異なりますが、大体のところは同じです。

説教・説教者について

“Hell”の説教原稿とオーディオはこちら

2016年12月18日(待降節の第4日曜日)に、米国コネチカット州ニューヘイブン市にあるChrist Church(米国聖公会)で語られた説教です。

アンドリュー・マックガーウェン氏のブログ

Andrew B. McGowan氏の主な著書:

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